900910

注意一秒、怪我一生(?)もしくは怪我の功名(??)

ロンドンで一日を Excursion に当てたよう (と云うと聞こえがいいが、その実単なる墓参り) 、パリでもそのつもりでいた。 モネの生家のあるジヴェルニーも写真で見る限り美しい所のよう。候補にあがりもした。

しかし。やはり。定番中の定番、と云えばここでありましょう。 と、王道を突き進む2人なのだ。 そう、それは……(ここで唄いたいのはやまやまなんですが、迷惑でしょうから断念します) その主題歌も懐かしい 『ヴェルサイユの薔薇』 でおなじみ、ヴェルサイユ宮殿だったりする。

よく把握していなかったのだが、 【RER】 というパリと郊外を結ぶ高速鉄道が何ルートかある。 因みにユーレイルパスは使用可 (ここがポイントですね、我々のような旅行者には)。 私たちは St. Michel Notre Dame 駅から乗り込むわけだが、これにはさして意味などない。 単に宿から近いから。

30分ほどの快適な旅で、ヴェルサイユ・リブ・ゴーシュ駅に到着。 何だか派手な観光地のわりに小さな駅だ。 見渡す限りあたりもなんてことない、特徴のない (ある意味鄙びた) 郊外風。 そんな中に どど〜〜〜んんっ とまるでエアポケットの如き宮殿。 あまりにのどかな周囲とあまりにアンバランス。

『おおっ!』
と思うものの、後が続かない。なんかヘン。ヒトが殆どいない。嫌な予感がしてきた。 閉ざされた門扉まで近づきおそるおそる確認する。

史上最大のオオボケ

どっひゃあ。 月曜は休みだって。史上最大の大ボケ。 すると何と?宮殿の中にははいれんと?嘘だろぉ? __さすがに、脱力して言葉も失う。が、気を取り直す(立ち直りは早いのが何よりですね)。

仕方ない、内部の庭園を散歩する (しかない) 。 大、小のトリアノン、愛の神殿 (しかし凄い名前) 、 マリー・アントワネットの田舎家 (結構リッパというありがちなパターン)… 等々見て歩くも今ひとつよく憶えていない。

まあ、 プチトリアノンのピンクマーブルが キレイだったなぁ、ぐらいのもの。

しかし後日 『地球の歩き方』 所載の簡単な地図を見て初めて気がついた。 この (あくまで個人的な感想→) いささかメリハリに欠ける庭園がばかみたいにひろいのだ。 あのデカい宮殿の数十倍?? ……そう、あのとき不思議だった。 何でこんなにデカい庭なんだろう、と。 どうして庭を散策するのに疲労するのだろう、と。 とても当時の貴族というか支配階級の気分で優雅に歩くなんて出来ねぇ〜よ〜。
“ほぉぉ〜っほっほ”
とかいっちゃってさ、扇で口元隠しながら (マンガの読みすぎですね) 。 だいたい、彼らは当時自分の足で歩いてたのか、という根本的な疑問がでてきた。 乗り物移動してたのだろうか?

こどもの頃読んだ、俗に云う“不思議ネタの本”(トンデモ本ともいう) に この宮殿を訪れた二人の婦人が仏革命時期にタイムスリップしてしまうエピソードがあった。 彼女たちは理由解らずのまま、その崩壊寸前の世界をかいま見て還ってくるのであった。

何故か宮殿内で手引きしてくれた人物 (確か貴族) もいたらしく、 なんでその男がそこらの時間軸のズレを掌握していたのかは 謎めいてもいるし、故にロマンチックでもあります。

こども心にも、もの凄いインパクトがあって、怖いようなでも羨ましいような感想を抱いたものだった。 しかし、それも宮殿内に入れてこその話……ですが。

光さす木立のなかのプロムナード

足の向くままあてもなくノンビリと歩きゆく。 するととても浪漫的なプロムナードが何処らあたりか現れる。 広くも狭くもないちょうどよい塩梅のまっすぐな道がそこにはあり、 その両脇には背の高い木立が包みこむよう続いている。 緑豊かに繁るそれはあたかもトンネルのようでもある。 よく見ると彼らは心持ち頭を内側に下げる如く佇んでいる。 それがよりいっそうトンネルの思いを強くさせるのかもしれなかった。

陳腐な表現をしよう。 風がさらさらと流れ、 見上げるとそのすきまより 木漏れ日が射しこんでいる。 一条の光の糸のように。

私たちのそばを課外学習らしき 小学生だか中学生 (日本の感覚で云うとです) が、 教師に引率されて通り過ぎてゆく。 おしゃまサンたちの声が 晴れた陽のもとで響いている。

がきんちょの頃から、幾度も夢想してきたそのままの姿の木立が本当にあることを知る。 おはなしや物語を通して心に思いえがいてきたそれだ。 まあ、さすがに、何時の時代かに何処かでのワタシが見た、なんてクサイことはいいませんがね。 とは云うものの。 この風景にあと少し我が身をおいておきたく、また去り難くもあり___気持ちよいねぇ〜、 とふたりは口にする。 近くにはのどかなくさはらが太陽の陽射しをたっぷりに享けて拡がっている。

別に冒険はしないが 羊をめぐるあれこれ

さて。 何時現れるかも見当つかぬ出口へと向け ダラダラと歩く。 目に、もこもこしたものが飛びこんでくる。 なんじゃ?

小径左手に広がる芝で羊が放牧されている。 んな間近で羊見るなんて初めてだぁ、 とはしゃぐ、はしゃぐ。 まるでそこらのがきんちょ。

柵ごしにてんで勝手に呼びかける。 咄嗟に口からでるのは、 “み〜ちゃん”だかの間の抜けた名前だ。 情ない、 まさかパリ郊外にみ〜ちゃんはいるまいに。

するとあろうことか、 まるで湧き出るが如く 何匹も何匹も寄ってくるではないか。 とはいえ。 一時に五匹もやってこられた日には 名づけも少々大変だったりはする。 ほれ、おまえは め〜ちゃん、 あんたは ひ〜ちゃん… 想像力のカケラもない 安直な名前しか思いつけないらしい。

君たちのゴマシオ頭の毛はカタイんだね。 なのに、首筋のところはふわふわなんだね。 ビー玉みたいな目をしてるんだね、 結構コワイ目だね。 初めて触っちゃったよ。

我々には羊寄せの才能があったのだね __なんて軽口たたきながら、 しばし羊たちと戯れる。

履歴書の特技欄に 書くものが出来たとひとりごちる。

やけくその ピクニック ?

木立のなかの芝に腰をおろす。 ぼう、と くさはらに目をやる。風の音を聴く  (風の歌を聴け、だっけ?という小説がありましたが。その作者には羊シリーズもありました)。 落ち着くじぶんって、バカみたいだ、と思う。

お弁当を持ってピクニックに来たいとこだね__どちらともなく子供みたいな言葉が口をつく。
そうだねぇ、ここで食べたら絶対美味しいだろうね。
おかずは何がいい?。
卵巻き。
ウインナー、タコさんのやつ。
絶対、ご飯はオニギリだよね。
あ〜、大根煮たの食べたい〜。
やめよ〜、絶対コッチで食べられないものの名前ゆうのは〜。

…でもそういうものに限って何か食べたくなるよねぇ。
ほんと、ほんと、日本食なんか全然恋しくないし、 別にわざわざこっちで食べたいと思ったこともない、 でも帰るまで絶対食べられないと決まってるものって一旦思い出すと妙に欲しくなる。
でも、帰ったら別にどっちでもよくなってるんだよ、きっと。
うんうん。
(もちろん標準語で話していたわけはない)

やっとのことで戻ってきた宮殿前。 囲まれるようになっている花壇がある。 そこではお兄さんが花に水をやっている。

あそこに見える窓のなかには どんな世界があるのだろうか。 そしてそこから外をみると どんな景色が見えるのだろうか (もしかしたら タイムスリップできたかもしれないのに…)。 何故、休みなのだろう。お〜〜〜い(しかし答えはない)。 空は青く太陽は明るく、

そしてお兄さんは水をまいている。

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