目醒めてみれば 何処か遠く
■ 09/05-09/06 ロンドン→パリ
ロンドン最後の夜は、余韻もへったくれもない慌しさで過ぎて行った。
元はといえば、時間がないにもかかわらず のんきに ワン・ケイで最後の晩餐?してた自分たちが悪いのだが。 おかげで、 ピカデリーからダブルデッカーでビクトリア駅に つくやいなや始まった “走れメロス”劇場ロンドン ver.
コインロッカーで荷物を取り出す際の、 暗証番号入れすらかったるい(番号忘れかけた己は最悪)。 イギリス入国時より当然買物で重くなっている巨大リュックをせたらって、 走れや走れの全力疾走開始。 もう駅構内だの周辺の景色なんて何一つ覚えていない。 そんなもん見てる閑あったら走っている。 覚えているのは……唯一、黒い夜空のみ。
Victoria Coach Station へ到着する。 何台もの night coach (夜行バス)が待機している。 そしてたくさんの人たちが出発を待っている。 ここまで来たらもう安心だ、とやっと心から安堵する。 走っている最後は口から内蔵が飛び出しそうな苦しさだったけれど、 どうにか集合に無事間に合ってよかった。
ここは、大陸へ渡る夜行バス night coach の発着ターミナル。
ターミナル内の売店で、 abbey 何とか?という名前の小瓶入りのミネラルウォーターを購入。 しかし。驚くほどの圧倒的不味さ。 どうしてこんなに不味い水になれるものか不思議なくらい。 最後という感傷も余韻のへったくれもなく、 こうして最終夜はのほほんと過ぎてゆくのだった。
ロンドンからパリへと向かうこの日。 朝ホテルをチェックアウトした後、 真っ赤なダブルデッカーでまずビクトリア駅に向かった。 駅の脇の道をしばらくゆくと、Euroline 社のオフィスがある。 night coach を運行している会社だ。 夜行バスは、 安いうえに列車とは違い乗換もしなくてよい、 おまけに早朝パリ入りできる…ということだった。 ならば、と大陸入り・ドーヴァー越えはこのルートを選んだわけです。
オフィスは大勢の客で溢れかえっている。 こりゃ一段落つく頃にはかなり時間かかりそうだと閑念した。 なんとか当夜のパリ行き便をブッキングしてもらいヤレヤレ。
ビクトリア駅の近くにある Victoria Coach Station へは 出発1時間前の夜8時には集合するよう念を押される。 駅とオフィスの丁度中間くらいに位置しています。 オフィスと同じ並び。細かいことはよく覚えてるもんです。 しかし…エラく早い集合時間。待ち時間が長いなぁ。 どうやら人数が揃うと、定刻前でも発車するらしい。 で、チェックインが1時間前、という次第らしい。 下手すると予約していても置いてゆくぞ、ということらしかった。こ、怖いよ〜。
まぁ、とにかく。これでやっとロンドン観光最終日のはじまり。 さぁ、あこもそこもでかけなきゃ。
バスは結構埋まっていたようだった。 前方の席に座る。左側なので、ドライバーがよくみえる。 どうやらフランス人らしい。どうでもいいけど、かなりのお調子者と見受けた。
静かな静かなロンドンの夜道をバスはドーヴァーへ向けて走り始める。 暗い夜道のなか、時折灯りがついていて人が出入りしている店がある。 何の店なんだろう。 道路上には、何度か Dartford 行きの表示が現れる。 ダートフォードも走るコースに入るんだろうか…。 そうか。ドーヴァーはケント州にある町だったのか。 どんな形でもその場に身を置けたことは嬉しかった。
蒼い、としか表現できない空。決して黒ではない空。 まっしろく浮き出た満月に近い月が、流れる灰色の雲の間かに見え隠れする。
このような蒼い夜空は、本当に存在するんだ。美しきこの夜。 人為的処理を施したフィルム上ではなく、我々の日常のなかにちゃんと存在するんだ。
どうして、国の位置が変わるだけで、 同じ夜空が全く似て非なるものになってしまうのだろう。 日本の漆黒の闇が妖怪譚を生み、 イギリスの蒼い闇が妖精伝説を生んだのが理解できるような気がする。
元々の土壌(=土着のカルチャー)の問題は大きいにしても。 やはり人々は、それぞれその隣り合った風景に 一番相応しいイマジネーションを喚起するのだろう。
蒼い闇は、その奥深くに果てない迷い子の森を連想させてしまうのです、私には。 門外漢なので云うのが憚られるんですが、 英国産の児童文学あたりにも、そういうイメージ持ってたので。
私は、この夜の空のいろがとても好きでした。
ちなみに、ケント州ダートフォードは、Keith Richards の生まれた土地です。 単にそれだけ。
かもめがなんしか、異様に可愛い。あまりに可愛い。 飛び回っている子たちも勿論なのだけど、 アスファルトの上にちょこんと いささかマヌケな面持ちでじっとしてる子たちが可愛らしすぎて困る。
そう。ここはドーヴァー海峡。彼らはここでの出迎え役。 海岸線は奇異にみえるほどに白くゴツゴツとした岩肌が垂直に切り立って続いている。 その白さはライトアップされると、何か異界を想像させるものがある。
出国のパスポート・ココントロールはまことあっけなく終了。見せる甲斐がないくらい。 胴にまいた貴重品入れから後ろ手に取り出す作業にかかる時間の方が それより長いなんてあんまりだ。
フェリー内では、しばしバスとおさらば。 船内で各自適当に好きに寛げばよいのです。思ったより暖かい。 船酔いの心配から薬まで飲んでいたものの、全くその心配は杞憂に終わった。 よかったよかった。 おしゃべりする人、横になって眠る人、自販機を利用する人… 約1時間半の穏やかな船の旅。 両替所もあるんだけどレート悪そうなので、“まぁ、いいっか” と利用しなかった。
安い、乗換不要、夜行ゆえに1泊分の宿代も浮く、一旦車内に乗り込めば後は 目的地に着くまで荷物は預けたままで楽できる… といいことづくめの夜行バス、ではあるんですが (反対に列車だと、一旦ドーヴァー駅で下車後、 船着場まで荷物かついで歩かねばならないのです。 おまけに、連絡まちが半時間程もあるらしい、という話でした)。
実は、『歩き方』には、唯一弱点があると書かれていました。
つまり、早朝6時半くらいにパリの北のはずれに降ろされるんです、このバスの場合。
だから、パリ市内へ移動できる程度のフランは必ず用意しておくように、
と注意書きがあったんですね。
それにもちろん目を通し、
“なるほどねぇ〜”
と頷きながらも、両替せずにパリ入りする自分たちって…。
“何とかなるよな”
とどうして根拠なく自信もって思えるのか…己でもはっきりいって謎です。
実は。このイイカゲンさが後でとんでもない嵐を巻き起こすことになるんですが。 船内では、そんなこと全く知らずひたすらのほほんとしている模様です。
再びバスに乗り込み、そのバスごとフェリーから出てゆきます。 降りたったその地は、フランスのカレー。いよいよヨーロッパ大陸へ上陸。 とはいっても、流れ作業的に上陸したのもあってか “ああ、もうフランスかぁ”ぐらいの気分でしたが。
さて。お調子者のドライバー氏ですが。 ロンドンを出てしばらくは元気でやたら口数も多かったものの、 疲れたのか次第に無口になってゆくのでした。 かなり時間が経った頃の話だとは思うんですが、 “なんか、ぼ〜っとした目をしていて、 運転中に今にも眠ってしまうんじゃないかと思ってハラハラしてた” とは、友人が明かした後日談。 確かに急に黙り始めたとは思っていたけれど…。何も起らないでよかった…。
petty cashbook | ||
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バス | 70 p | #93 Warren Street - Victoria Station |
夜行バスチケット | 27£ | Euroline社 Night Coach (from LONDON to PARIS) adult/oneway |
バス | 70 p | Piccadelly - Victoria Station |
ミネラル水 | 130 p | 夜行バスターミナル内売店。超不味い。 @65 p |