900917
なんてざっぱな(言い換えるなら、おおらか)な国なんだろう、この国は。
朝一番に出向いたロッシオ広場にある銀行で両替の際受け取ったのは、2,231esc。 …1escってすると存在するのか、やはり。カルチャーショック状態。 すると今までのアレはいったい…。 だいたい系列支店での出来事なんだが。 でもって、おそらく一番ポピュラーな銀行と思われるんだが、ココ。 少なくともこの旅において、他の国の銀行ではこういうおおざっぱさは無かった理由で。 まぁ、いいんだけど、ポルトガル。日本の銀行では体験できないぞ、さすがに。
腑に落ちない感動の後、近所のスーパーでお気に入りのYOPを買って宿へ戻る。 これが本日の朝食です。いや、本当美味しいんです、これが、ってそういう問題じゃない? エアメールのハガキを書いたりしながら、のんびり。 とは言っても、ここリスボンで絵葉書を買い損ね、 何故かロンドンで買ったハガキにリスボン便りをしたためてる自分。 正午にはチェックアウト。この謎の多いでも思い出深い宿とも別れると思うと淋しい。
ポルトガル入りして崩していた体調もかなり復活し、ホッとする。行動に問題なさそうだ。 さあ、リスボン最後の一日。まだ果たしていない野望もある。楽しんでゆこう。
宿近くの郵便局で日本への絵葉書を送る。 まずレスタウラドレス広場から、来た時同様バスにのり今度はサンタ・アポローニャ駅まで戻る。 コインロッカーにリュックを預けるためだ。 こうして身軽になって、時間を気にせず一日を有効に使うことができる。
私たちの大いなる野望―それは、とびきり美味しいイワシの塩焼きを食べること。 幸いにもガイドブック所載の美味しいと評判の食堂は駅の近くらしかった。 うろうろ散歩がてらその店を探すことに。
あの、気配すらないんですが…って、いうかいったい今歩いてるここは何処? それよりさっきもこの風景見た記憶あるんですが…もしかして又もやぐるぐる地獄なのか。
辺りはがらんとして殆ど人通りもない静かな佇まいだった。 建物もあまりなく、見渡すとかなり見晴らしは良いのだが、それは何処か物寂しさを伴っていた。 足元に続くのは舗装されていない硬く乾いた土の道。風に土は何度も舞い上がる。 なぜか辺りはとても白かった、という記憶が今も残っている。 それが南欧で何度も感じた種類の強い陽光のためか、立ち上る土ぼこりのためか、 それともそのどちらもか、否まったく他の要因のためかは解らない。 ただ言えるのは、何処でもない何処かに、時間から切り離された隠れ家のような場所に 迷い込んだような、自分の記憶の一切が揺らぐような気持ちでいたことだった。 それは何処か涯てのない空恐ろしさであり、同時にひどく懐かしい感情だった。 地面には何か知らないが、錆びたレールのようなものが顔を出していた気がする (もしかしたらそんなものはなく、後日私の記憶が悪気無く捏造したのかもしれんが←ヲイ)。 陽光は射すが如く私たちに降りそそぐ。店はちっとも見つからない。うぇぇぇん。泣くぞ。 でも、この懐かしい荒涼を何故か自分は好きだと思った。
結構解りづらかった店をようやく見つけ出した頃、時間はかなり経っていた。 というか、単なるワシらが方向音痴なんだろうか。どうでもいいが相変わらず暑い。 その店は、ガランとした下町風の一画にある。 イワシの炭焼きが美味との評判らしかった。 その食堂は坂道に面している。テラス席が幾つか外にも設けられているのだが、 そのテラスも坂をそのまま利用する形になっている。うまく説明できないのがすんません。 なんていうか、一番上段のテーブルにつくと、下に続くテーブル群を段々に見下ろせる理由です。 横手の柵ごしには坂道をもまた見下ろすことができて、結構いい眺めだったりします。
テラス高さ中ほどのテーブルに座った。そのため道をかなり見下ろす感じになる。 丸いテーブルには一本ずつ日よけのパラソルが立っている。 いや、ファッションではなく実用品として必要なだけなんだと思う。 それが結果的に絵柄として趣を持つに至ってもいるけど。 店の壁も埃っぽい淡い黄土色。ここら一帯がなんだか薄い黄土色といった印象。 乾いた黄土色って、ある種の郷愁を抱かせる不思議な力があるんだろうか。 旧い映画のワンシーンに紛れ込んでしまったような錯覚すらおきる。
我々にとっては豪華なランチ・タイムがスタート。やる時ゃやるのである。 これがリスボンでの必須目標でもあったのだから。もう頭の中にはひたすらイワシ。 おばさんがオーダーを取りにくる。イワシがよいと念押しする。 はじめ鯵の塩焼きならすぐにできるのでそうしないか、とおばさん。 もちろん、それも美味しいのだろうとは思うが、頼むからイワシで頼む、食べたいと所望する。 イワシ以外うけつけんぞ、という真摯な表情(どんなだよ…)に負けたのかどうか、 わかった、なんとかできると思う、と了承してくれた。 きっと彼女は思ってるに違いない。 “どうして日本人はみなイワシばかり食べたがるんだろう? イワシばかりが魚じゃあるまいに…鯵だって美味しいのにサ”ってね。
運ばれてきたイワシはひたすら肉厚でデカい。本当にイワシか?と驚くくらいに。 こんがりと焦げ色つけてることが一層美味しそうに見せるようだ。 では、いただきます。美味い。ふたりは思わず感に堪えぬよう声をあげる。 生臭みはまったく無く、炭火独特の風味と荒削りな岩塩らしきものが それだけで十分な味付けをしているようだ。幸福である。 一皿5尾入りで最初多いかなと心配していたのだが、まったくの杞憂だった。 ふたりでぺろりとたいらげる始末。もう少しあってもいいかも状態。 岩塩って美味しいものなのだと妙な感慨にふける。
海が近いためか、やはり魚介が全般に美味しいのだろう。 併せてオーダーした、タコやイカ、何種かの貝をガーリック風味で炒めたものも嬉しい味だ。 なんだか名前のさっぱり解らない貝もあるが、気にしない。美味しいから良しとする。 主役ではないが、渋い名バイプレイヤーといったところか。 陽の燦燦と輝く午後、射すような暑さにとてもよく似合う味といえた。 暑いと塩味を美味しく思う、というか自然と欲するように人間の身体はできているのだろう。
サラダもあったほうがいいだろう、と軽い気持ちで頼んだのがトマトのサラダ。 まずテーブルに置かれた姿を見て驚く。トマト巨大すぎ…。直径何センチあるんだ、これは。 そんな夏みかんのようにデカイトマトがただ輪切りにされレタスの上に並べられている。 シンプルなんだが豪快でみもふたも無さ加減にひどく感銘を受ける。 味付けはこれまた豪快なまでにブツブツとした岩塩がプレーンなドレッシングと共にかかっている。 それだけ、なのだが呆れるほどに美味で仕方ないので素直に呆れた。 二人して炎天下ポルトガルのトマトの偉大さについて讃えあう、もちろん岩塩についても。 トマトサラダであってもはやトマトサラダを超越している。 悔しいけれどこのトマトも塩も日本には存在しないもの。 はっきり言って、このイワシとトマトのためだけでもポルトガルに再び行きたい…。
パンとチーズはオーダーしていないにも関わらずテーブルにセットされた。 “???”と少し嫌な(笑)予感もあったのだが、“ま、いーか”と食べる二人。 案の定、清算時その分を要求されていた。おそらく手をつけたら支払うシステムなのか。 なかなか商売上手かも。ま、美味しい食事の共だったので別にいい。
さて。ここにひとつ大きな問題がある。 実は、この店が探していたところかどうかの確証はゼロと言っていい。 該当と思える地域をうろうろ迷ったあげく見つけた店としか実際言いようがない。 でも、そんなことはどうでもいいことかもしれない。 美味しい店で満足した。そこであろうがなかろうがそれが一番大事という事で。
ワイン片手の友はほろよいかげんで上機嫌だ。 夏のような太陽の下、小さなパラソルが作る日陰で、風も匂いも全て我が身に受けながら 美味しいものを食べる。こんなシチュエイションでのワインはおそらく最高だろう。 ワインがまったく飲めない自分はこういう時なんだかとても人生を損してる気持ちになる。 ヨーロッパ行くのにワイン飲めないってやはりどう考えてももったいない。とほほ。
笑い、喋り、食べながら坂を見下ろしていると、時に自分が何処にいるのか解らなくなる。 陽射しの強さがそのあいまいな時間のネジレをいっそう強めるのだろうか。 眼下にひろがる全ては、当たり前だがリスボンの日常生活の風景でもある。 彼らにとって昨日明日と続き続いてゆく日常の中の今日であり、 今同時に私はそんな彼らの今日のひとコマに風景の1パーツとしてだが加えられている。 彼らの日々と私たちの日々が、本来出会うはずなかった二つが織り成す綾の不思議を思う。 むしょうに旅をしているのだ、と感じるのはこういう時なのだ。
向かいの店では10才くらいの男の子(可愛い、将来が楽しみな感じ)が 店番なのか椅子に腰かけて静かに座っている。 どうやら耳にはウォークマン。 日本から遠く離れたこんな鄙な土地でも、こうして日本に出会うことは うまく説明できないが感慨深いものはある。 ある意味ゆるやかにでも世界は同時進行しているのかもしれないとも思う。 彼は遠く離れた島国の10才の少年について思ったりすることはあるのだろうか。
通りがかった数人組のオヤジのうちの一人が、柵ごしにすぐ真下から聞いてくる。
「イワシか?」
「そうですよ」
と笑って答える。
するとオヤジはニカッと笑うと親指を立てると、それはいい!という風に言って又歩いていった。
何処からかテレビかの音が聞こえ、世間話のそれなのか話し声も聞こえてくる。
絵に描いたような昼下がり。
満腹となった私たちは、又テージョ川沿いの道を風にあたりながら歩き始める。
途中すれ違うオヤジ(オヤジしかいないのか…もしかして)がエラく真剣な眼差しで問うてくる。
「日本人か?」
少しばかり緊張し身構えた我々は、そうだ、と答える。
すると先ほどからの真剣な顔をまったく崩さないまま彼は先のオヤジ同様やはり親指立てて
一言力強く言った。
「Very Good !!」
身体中の緊張は一気にほぐれ力が抜けた。同時にふたりして何か笑い始めた。
理由はわからないが満足げに去って行った彼を思いかえす。
いったい何なんだろう。青い空と穏やかな海の如き流れの下、そして暑い陽射し、こういう状況で 陽気になるなと言うほうが無理だ。私たちはけらけらと声を立てて笑いながら歩く。 たぶんそれほど実は緊張していた裏返しだったんだろう。 そして彼の台詞とサムアップのポーズを真似てまた二人は笑いあった。
petty cashbook | ||
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両替 | +2,231esc | ロッシオ広場BANCO FONSECAS&BURNAY |
US20$(レート:138.785)→2,776esc但し手数料含(45esc@500esc) | ||
切手代 | 90esc | 日本宛の絵はがき。 |
YOP | 75esc | 宿近くのスーパー。お気に入りのヨーグルトドリンク。 |
バス | 110esc | 9番レスタウラドレス広場→サンタアポローニャ駅 |
コインロッカー | ? | 駅で荷物を預ける |
鰯の炭火塩焼き(5尾) | 450esc | ランチ(左記は二人分2,020esc一人当たり1,010esc)。 おそらく"Os Minhotos"と思われるのだが、もしかすると全然違う店だったのかもしれない。 いったいあそこは何と云う店だったのか… |
タコ・イカ・貝などのガーリック風味 | 500esc | |
トマトとレタスのサラダ | 400esc | |
ワイン1/2 | 290esc | |
カフェ | 80esc | |
パン | 200esc | |
チーズ | 100esc |