明は、尚も続けようとする俺を、ちょ、ちょっと待て、というように制した。
そして真剣な面持ちでしばらく黙り込んだ。
「だいたい…例え “俺たちが思うお前” が全て消えたとして…
て、まずこの仮定からしてむちゃくちゃだと思うんだけどな、まぁいい――。
そこでどうして実際のお前の存在、肉体まで消失ってオチになるんだよ。
そんなこと在りえる理由ないだろ?幾らなんでも。映画じゃないんだから…」
「だけど――」
上手い例えが見つけられない…
「たとえば。例のダンゴ虫サイトがあるだろ」
「おまえ、えらくこだわるな。よほど気にいったらしいな」
「うるさい。人の話を最後まで聞けよ。
俺たちは今あのサイトが “在る” と知っている、実際に見たことによって知っている。
でも、それはあくまで、俺たちが意識的にしろ偶然の結果にしろ、
その存在を見出したからだろ。
俺たちが “在る” と意味づけたから、存在し始めたともいえるだろ」
「確かに…そりゃその通りだけど」
「俺たちが気づこうが気づかまいが、ダンゴ虫サイトは “在る” と思うか」
「そりゃ、あるんだろう。例のへんてこな名前の女が作ってるんだから」
「それはでも彼女を軸とした現実での話だろ。
そして俺たちと同じく、このサイトを “知った” 者にとっての現実だろ」
「おまえ、いったい何がいいたいんだよ。俺、なんか混乱してきたよ」
「ゴメン。俺も混乱してるんだ、正直何を言ってるのかよく解っていないんだ。
ダンゴ虫サイトもその作者も、確かにある現実では存在しているんだろう。
でも俺たちの現実では、
それを在ると認識しない限りは存在していないのと同じなんじゃないのか。
俺たちがその存在を知る、認めることで、初めてそれは存在しはじめるんだよ。
結果は予測できないんだよ。
あの日俺があの検索結果をクリックしたところで、
もし たまたまその日限りのNot found
だったら…また違う現実に俺たちは今いるはずだ」
「それは…そうかもしれない…だからといって…」
「極論なのは俺が一番承知してる、安心してくれ」
「つまり…お前は、俺たちの “お前がいるという認識” あっての存在ということか。
もしお前なんか元々いないという仮定の上で、その角度から俺の日常を見渡したとき――
お前がその何処にも存在しない、という現実を今度は生きうる、ってことか」
「俺もよく解ってないけど。たぶん、そういうことなんじゃないか――って」
明は自分が言った言葉の重みに耐えかねるような顔をした。
天井をしばらく見上げた後、
それでも気を取り直したような表情にそれをとりかえた。
明はこの言葉をぐっと飲みこんだのかもしれない、とふと思った。
“なら俺もそうなのか――? 俺にも、それは起るのか――”