「いったい…どうしたんだよ。前から思ってたんだけど最近お前へんだぞ。
ユリカちゃんも心配してたし。何かあったのか?疲れてるのか?」
「ユリカには…迷惑かけてると思う、いや…酷いことをした。
でも、なんとか修復したいとは思ってる」
「そうか…ならいいけど。なんか真剣な話みたいだな…
とはいっても、いきなり聞かれて即答するには難しい問題だな」
明は俺に向かい合う形に座りなおした。
「確かに。俺が勝手に思うお前らしさ…に起因してるのはあるだろうな。
ただ、それはでたらめに思いつくわけじゃあないよ、当然だろう。
お前のやること考えることを一杯俺は見てきた、嫌になるくらいね。
一応そこから導かれた “らしさ” ではあるんだよ。根拠はあるんだよ。
お前は同じようなものを好むし、別の意味で同じようなものを嫌う。
それは嗜好とか好み、って言えばいいんだろうけどさ。
またある事に対して、お前はいつも同じような反応をする。
でも、例えば俺はそうではなかったりする。それも “らしさ” じゃないのか。
その傾向に破綻がないとき、“おまえらしい” といわれるだけだろ?」
「じゃあ…破綻が生じた時はどう思う?
お前から見て、とうてい俺らしくないこと言ったりやったりする時は」
「まずは…とりあえず驚くよ。
次に、うぅん…自分の中でそれもお前だと納得させるものを探す。
俺の中にはお前のパーツがいっぱいあるんだよ、そうさ、そんな驚いた顔すんな。
そのパーツの中にはあまり使われない滅多に使われないお前もあるんだよ。
その山から、適当にいつもとは違う穴を埋めるものを見つけ出してくるんだ。
だけど、たった一度しか使われることのないパーツもお前なんだからさ。
結局、破綻にはならないんだよ」
安心できたか?という風な穏やかな笑顔で明は明快に答えた。
カップをゆらゆらといつものように揺らしながら。
「それでも…それでも、適当なパーツが見つけられない時はどうする?」
俺は言葉尻を捉えるわけではないが、明に聞くことにした。
明はいったい何がどうなってるんだ、という表情のまま珈琲を喉に流し込む。
「待ってくれよ…そんなこと今まで考えたことないぜ。勘弁してくれよ。
……そうだな、その時は納得する。それもお前だ、って。
それが人としての道に外れない限りな。
もし、外れるときは、お前がなんと言おうと俺は認めん。
常識は時代で変るからいい。でも、人間としての矜持は大事だ」
「明らしいや…」
俺は思わず口にして、そして笑った。
小学校の頃から変らない。
青臭いと笑うなら笑えと自らそれを守りつづけている。
「なぁ明。お前が思う俺が全て消えたとき。俺という肉体はそれでも俺か?
それとも俺がいたという記憶ごとお前のなかから消えるのか?」