900911

黄昏は逢魔が時、もしくは黄昏時に見つけたの

ピエール(仮) のせいで? Y's もギャルソンもクローズの時間になっている。くそぅ。

てなわけで、愛しいいにしえの Paris の面影を今に残すと言われるサンルイ島へ行こうと変更。 さよう、旅先においては臨機応変は大切であります。

宵闇迫るパリのまちの橋のたもとで、
“ 向こう岸、すっごく素敵な光景だねぇ〜 ”
とばかり二人して見とれてしまっていた。 が、何をいわんや。 その幻想的な黄昏の世界こそが、目指すサンルイ島なのであった。 相変わらず大ボケな展開だと思う。

島のなかへ入り、足の向くままにまかすことにする。 少しずつ、宵は深まってゆく。 厳格なまでの静寂。

犬を連れた?母娘連れが川べりを歩いていたら、向うからやってくる。 ファッションから想像するにここらの住人なのであろう。 日常着ではあるのだけど、カジュアルではなくきちんとしてるというか、まあ一言で言うとコンサバ。 清潔感のある、どことない品の良さがある。永遠の定番の世界を感じさせないこともない。

何が流行ろうが廃れようが関係なさそうな風でさえある。 それは拒絶 (つっぱり) ではなく、 もとよりそんな世の流れなど気にとめてもいないニュートラルさの方が近いようだ。 これを有閑階級とまではいえないまでも、 なにかが他の (それまで訪れた限りですけど) パリの町と違うみたいな気もする。

パリはフランスの一都市である。それ以上でも以下でもない…はずだった

ごたぶんにもれず。
わたしとて幼い頃から、遠く離れた日本で純粋培養されてしまったような パリーのイメージがやはりあるわけで。 よいところだけを切り貼りして、んでもって殺菌消毒してさ、 真空パックしたよくあるイメージといっていいでしょう。 ひとつひとつ使用しているパーツは (おそらく) 現実なのに、 組み立てたものは、どこにも存在しえない架空の町になっていたりするのだ、 これが。困ったもんですが。

とはいうものの。
だいたい長じるにしたがってカラクリも見えてくる。 パリの町を聖人君子と思い込んでいたけど、ふつーの清濁あわせもったヤツだよな、 でもそのことに気づくとヤツの人としての深みも増すもんだな、みたいな。 で、それはそれでまんざらでもない。

だから。
パリを訪れて。 ほんのコドモん頃空想したパリのイメージそのままの光景など見られなくても仕方が無い、 というより当然とすら思っていた。 あれは切り貼りした合成写真を わたしの特注のカメラのファインダーを通してみたものにすぎなかったのだから。

それにさ。
今のわたしにとって、パリの魅力は別の要素に求めてもいるから失望もない。 だいち、今のパリの風景も魅力的だしね。

……そんな風に思っていた。 このときまでは__。

ばっかみたいな話だけれど、あったのだ。 そのパリの姿が。びえぇ。 ここ、サンルイ島に。

いきなりなんの前触れもなく、 古き良き巴里の佇まい (と勝手に想像していたもの) が目の前に現れてしまったのだ。

ひえぇぇ〜っっ。頭はパニック状態。 あんだけ?斜に構えていたのに、 本当に出現してしまったら情ないくらい骨抜き状態ではないか。 まだまだ青いな。

あとはまるで海月のようになってぷかりぷかり、サンルイの路地を漂うのみ。 あまりに豊かであまりに穏やかであまりにシックで あまりに詩的であまりにいにしえの巴里であまりに………(以下略)。

薄暮のなか、全ては映画のなかのできごとのようだったりする。

逢魔が時のサンルイ島にて

闇の深まりとともに。 外灯の橙のひかりがぼうと浮き上がるように心ばかし通りを照らしだす。 小さな路地をあてもなくただ歩いている。 暗闇のなかに人影がぼんやりと見える。こちらに近づいてくるようにも見える。 近づくにつれて見え始めるその姿に、わたしゃぶっとばされる。

駄目だ。こりゃ夢みてんだ。
__そうじゃなきゃ、疲れのあまり、とうとう幻をみているに違いない。 こんなシチュエイションあるわきゃねぇよ。

彼、その男は小柄な中年男だった。 顔にすこし ビル・ワイマン 入っていたりもした。 男はシルクハットを被り燕尾服?にその身を包んでいた。 男の顔は白く塗られ、目には黒く縁取りされていた。 大きなホクロがあったかもしれない。 男の片方の手には花束が握られている。 彼は道化? まるでチャップリンのようですらある。

「ボンジュール」

まるで現つと幻の境目でかろうじて聴こえるような小さな声で、 男はすれちがいざま一言だけ挨拶する。 次の瞬間にはもう何もなかったかのように、 男はわたし達の歩いてきた方向へと歩いてゆく。

じぶんでも説明できぬ衝動にかられ、 ほんのわずかな時間の後、慌てて後ろを振りかえる。 遠退いてゆく彼の姿がそこには、ちゃんと、あった。

わたし達はいったいどこに紛れこんでしまったのだろう。

たそかれときは逢魔が時という言葉をふと思い出す。

きっと。

この街のためにある言葉なのだろう。

正確には、ボンソワールだったのかもしれない。そのほうが正しい気がする。 が、ボンジュールと、聴こえた気もする。わからん。 もとより、あれが幻でないという確信すらない。

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