900918

私が彼について知っている2,3のことがら

さて。

美術館においてだけは、 げにありがたきニッポンのパックツアー御一行さま、ではあろう。 その数かなり多く、意図せずとも彼らと出くわしてしまうことさえ珍しいことではない。 当然、みなガイドつき。

もちろん___なすべくことはただひとつ。 あくまでさりげなく、近からず遠からずの距離にていろいろ聞かせてもらうことだ (とはいいつつ殆どくっついている方が多いけど)。

ポイントは、まるでツアー客のごとき顔をして そのシーンの中に溶け込んでしまうこと。 矛盾するようだけど、あくまで縁あってご一緒させて頂いている身なのだ、 という謙虚さを感じさせる佇まいであることだろう。

贅沢な話ではあるけど、館内日本語ツアーが同時多発状態になることすら多く、 そういう時は選択に悩まされたものだった。 また、ひとつのツアーにしばらくついてまわり、 飽きてしまったり、 すでに他のガイド付き鑑賞を済ませた部屋を再訪することになったり、 もしくは連れてゆかれるフロアが今ひとつ魅力的でなかったりした場合は、 そこを離れ別なるツアーに紛れこめばいい。

というか、ここまで数が多いいとガイドもみな人それぞれで、 “癖”のようなものもあり興味深い。 ガイドも玉石混合?、レベルにかなりの差もあるようだった。 何せ我々はは比較対照できるのが強み (何を威張ってるんだか)。 ガイドの質も含めた個性が判ってくると、 こちらも“どうせ聞くならアノ人” というように付いてゆくツアーを選んだりもしていた。

ここ、プラド美術館で。 グレコを詳しく説明していた少人数のツアーは彼の足跡を訪ねるもののようだ。 次に向かうらしいトレドの話も絡めつつ、一団はガイドを受けている。 ここのガイドの女性は知識豊富で落ち着いたなかなかよいガイド嬢でありました。 結果、グレコ以外にも幾つか (意識的に) ともにまわらせてもらいました。 ありがとうございました。

彼について述べたいと思います

しかし。
なんといっても、最大のヒットはやはり“カレ”をおいてないであろう。

グラサンを頭の上に乗せるようにかけている。 このひとつの所作だけで匂ってくるものがある。 そして細身の体躯はラフなファッションで包まれている。 いかにもカレの“自由な精神性?”を見せたい、 という一見さりげなさそうに見える高度なテクニック?。 が、実は単なる自己主張が激しいヤツ、 という根っこも自ら伝えてしまうなかなかナイスなスタイリングだ。 ジャケットは羽織らず肩にひっかけている。 このセンスのめまいするほどのかぶれたアナクロさはどうだ!

もう開いた口がふさがらない程ナイス。 着ないなら手にでも持てよ、という突っ込みは邪道であろう。 グラサンはあくまで頭上に誇示されねばならず、 ジャケットに袖を通すよな野暮はしてはならない (聞いたんか、じぶん…)。

そして、さっと (いささか大時代がかった仕草で) そのジャケットの下から 片方の手を伸ばすように高く掲げる (これは説明すべき作品を皆に指し示すときのお決まりの見得の切り方です)。 これがカレの美意識 (って、だから、聞いたんか、じぶん…)。

話術もこれまたナイス。 流れるようにレトリックを駆使して、 梅や鶯ホーホケキョと名調子を続けると、ぴたっと沈黙するのだ。 そして最高のブレイクたるタイミングを見計らい、また一層大げさな結論へと導く。 ブレイクの後は幾分スピードを落として喋べるのも効果的。 めりはりのつけ方が非常に巧い。

マヤではなくマッハ、らしい

カレのガイドはその独断で貫かれている。
どこの誰かが、 例えどんなにエライと言われるやつがどう言ったとかなんて関係ないのさ、 そんなのは的外れなのさ、ボクは自信を持ってこう思ってるのさ……と言わんばかりに言いたい放題なのサ。

実は、作品じゃなくて、自分のことを知ってもらいたいんだろうか?とすら思う。 演技過剰野郎?!  でも何故だか憎めない、許してやりたい、この愛すべきキャラクター、 という感じでしょうか。 こんなタイプの人、まだ生息してたんだなぁ (ごめん)。 あまりにナイスで結局、 ずっとついてまわってしまったじゃないか〜!!(ファンか、じぶん…)。

おかげで、一度説明を聞いたのに、 またあの作品をアナタのせいで見てしまったじゃないか?!
おまけにナイスだ。 先ほどのガイドと同じ絵を見ても全然ちゃうこと言うぞ、この御仁。 どっちが本当かわからんが、 あんまり自信満々だから、ついこっちを信じてしまうじゃないか?!

ナイスすぎる。 貶しながら、 さりげなく (本意ではないのだが、というニュアンスをちらつかせつつ) 誉める、 という高等テク (どこがや?) を使ってるぞ、この御仁。

“裸”の方にしても、“着衣”の方にしても、 “マヤ”じゃないんだぞ、実は“マッハ”なんだぞ。 そのことをそんなに力説されると“マヤ”と“マッハ”(“マハ”にあらず、ここ重要?)を読み違えることは、 この絵のコンセプトすら誤解してしまう行為のよにも聞こえてしまう。

どうして、“マッハ”という抑揚が そんなに勿体ぶって独特なんだ、しかし (と思う) 。 おかしすぎる。
「 実は私はこの絵が好きではありません 」
なんて普通、ガイドがいうか〜?!可笑しすぎる。 二階の展示フロアで最初に一目みたときから、 一目惚れ、じゃない…強烈に“ヘン”をまきちらしていたけど、 これぞ本両発揮か?! (ちなみに“マッハ”は一階です)

マドリ1の伊達男 ?

ほんとに、気障で軟派で。 この美術館一番の傑作は、 ベラスケスでもなけりゃ、この方の嫌いな“マッハ”の連作でもない。 まさしく彼に他ならない。 嗚呼! スペインはマドリのアナクロな伊達男に栄光あれ。

奇しくも友人もカレに同様のインパクトを受けていたらしい。後で知った。 が、当然というべきだろう。 館を出た後、このいなせな兄ちゃんを身振り手振りよろしく真似しあって 感動を再確認するのが我々のいいところである。

再び、ここプラド美術館を再訪する機会を得たならば、 幸運にもカレに今一度再会できますように、と心から願うのであった。

ちなみに。このあまりに有名なゴヤの手による連作の“マッハ”なんですが。 わたしは斉藤由貴か?!と思いましたけどね。

もうひとつのオチ。 見終わって友人と落ちあうと一枚のリーフレットをくれた。 例の料金箱のとこの“自由にお取りください”な案内書だ。 おそるおそる聞いてみる。

__コレ、どうしたの?
__たくさん積んであるから記念にもらってきたの、ねえさんのも。

……ありがたい心遣いっす。

__でも、これ本当はお金いるみたいだよ、どうやら。
__え゛〜〜っっ!!!

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アイスクリーム (モカ) 150 pts プラド前のスタンド

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