900905

あまりにあまりにそれはささやかな神話

ワン・ケイ(日玉 記) は今晩もいっぱいだ。よく通ったなぁ。 もはや、好きと言ってもよいのかもしれない。

なぜ、最後の最後にワンタンをオーダーしたのか、全くその理由は覚えていない。 座った円卓の隣の席には少年たちのグループがいた。 中南米系っぽい匂いをもったルックス。 移民のこどもたちなのだろうか。陽気で屈託ない笑顔の人懐っこそうな少年たち。 少々ウルサいんだが。 一人の少年がウェイターに水を頼んでいる。しばらくして運ばれてきたようだ。 もちろん、私たちは私たちでイギリス最後の夜を名残惜しむように話しこんでいた。

すると。彼らは邪気のない笑顔で一杯のコップを差し出すではないか

「 レディたち (レディだって!!) どうぞ 」

二人していきなりの申し出に喋りも途中にポカンと相手をみるのみ。 いやいや、せっかくのお水だし悪いよ、と辞退する (日本と違って、頼まないとお冷が勝手に出てくるわけではないので)。 が、ボクらの分はちゃんとあるから、と別のコップを示し、再びどうぞと勧めてくる (確かにそうだった。どうやら最初からそのつもりで頼んでくれたらしい)。

面白かったのは、 先の突然の申し出から今の再度のそれに至るまでの物腰、話し方が ひどく悠然としていて、かつ凄くスマートでもあったこと (そのくせ、精一杯オトナぶってるのも垣間見れて微笑ましくもあった)。 板についていて自然なんだもん。 さっきまで自分たちで小うるさくワイワイやってた時と結びつかん。 ちょっとみ、悪ガキ風の子たちなだけに、 何かその一連の行為が可愛いらしくもある。

いい子達のようだし、では厚意に甘えて…とありがたくいただくことにした。 正直、水を飲むとホッとする。ひとごこちつけるというのはあった、やはり。 リーダー格の子がいて、その子が率先して話しかけてくる。

「 北京から来たの? 」
さすがに想定していなかったセリフだ。とはいっても、言ってる本人は真剣。

思わず吹き出しながら答える。
「 日本からだよ 」
といっても、日本と北京は違うのか?といった塩梅。 一応北京は中国にあるのだ、と伝える。

EVERY BOY LOVES MOTOR BIKING , DOESN'T HE ?

彼らは、友好の意を表すため、おなじみのパターンで、 日本について知っている単語を脈路なくランダムににこにこして発しはじめる。 またしてもウルサくなった。

でも。

それは地名ではなかった。 挨拶のたぐいでもそれはなかった。 それは、バイクのメーカーの名前だった。 なにか…すっごく、らしくて可愛らしかった。 10代の町の少年にとっての日本って、こうなんだなぁ。 目を輝かせて彼らが口走るのは、KAWASAKI だの SUZUKI だの。 よく知ってるよ、とかニコニコして言うのだ、これがまた。

やれ、貿易不均衡だの日系企業の現地進出における搾取だの (前者は一概にいえないのかもしれないが)、 同胞の仕業ながら、頭にきたりなんだかなぁ、と滅入る話は 海外における日本の姿として当時、よくあった。 ヨーロッパにおいても、 そこに見つけ出せる日本のあまりののっぺらぼうさであり即物的なことに 苦笑を禁じえなかったことは一度ではなかった。 もちろん、全てがそうではないし、またそれは日本に限ったことでもない。

ただ、どうしても日本がらみだと、現象が見えやすいだけのことだ。 アメリカ人なら他国でのアメリカの姿が良くも悪くも一番見えやすいのだろう。

なのに。手前勝手なものいいになるけど。 バイクのメーカーの名前を見聞きするときだけは、 嫌じゃないし、こちらまで何だかほころんでしまうことがあるのは どうしてなのだろうか。

その名を口にする人たちの熱っぽい目から、 好きでたまらない、という思いが伝わってくるからなんだろうか。 私自身は別にバイク好きではないけれど、そんな風に思うことがある。

JAPAN と聞くと、

「KAWASAKI のあるところだろ!! 知ってるよ!!」
とまくしてたてる少年たちを見てるとそんなことも思う。

petty cashbook
ワンタン £1.60 ワンケイ にて 夕食。+チップ

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