900916

原因は栄養失調の巻

目覚めはするものの、妙な浮遊感で身体がつつまれぼーぅっとしている。 ああ、いけない。これは熱がある。一晩の睡眠ではやはり駄目だというのか。 旅行中体調を崩すことは一番避けたかった。 日本を出発前から何があってもそれだけはと心に誓い気をつけていたつもりだったのに。 結果的には見事な自爆で連れの足をひっぱる結果に。自己嫌悪。 なんとしてもこれ以上行動に支障をきたすのは避けたい。迷惑はかけたくない。 自分に気合を入れる。ぅおりゃっ。何が何でもここで治してやる。

日曜の朝はここでも同様に店は閉まり、 ただでさえ寂しい町が一層しんと静まり返ってしまう。 抜けるような青空が皮肉なことによりその寂寥感を強めてしまう。

リベルターデ大通りにある食料品店でミネラルウォーターの1.5Lボトルを購入する。 昨日のDelta Cafe近くにある別のカフェ(Buondio Cafe?とか言ったのかな)で朝食をとる。 オムレツのポテトフライ、サラダ付にエスプレッソ。ここもオープンカフェだ。 少し散歩ということで辺りをぶらぶらしてみる、どうだろうなんとか動けそうならいいのだが… と祈りながら一旦宿へと戻るが。 駄目だ、やはりもう限界らしい。熱がある。 悔しいし申し訳ないがもう部屋で休養するしか道がないようだ。

当初の予定通り部屋を移る。 心配そうな彼女をこちらこそ申し訳ない気持ちで見送る。 せめて楽しんできてほしい。 ベッドの上でぼんやりとする。日のあたりにくい薄暗い部屋なのだが、 それでも昼間は白い太陽の光が射しこんでくることに気づいた。 しばらく眠ることにしよう。

New Cinema Paradise in Lisboa

強かった陽射しもうっすらとした光に変わる頃、もう夕方だろう、彼女が帰ってきた。 近所の映画館で『ディック・トレイシー』を見てきたそうだ。 我々の予想通りアル・パチーノとダスティン・ホフマンは出演。 一瞬身体の事も忘れ、無理してでも出かければよかった…と思ってしまう (パチーノ好きなもんで、つい)。 実は前日映画館に貼ってあったポスターに彼ら二名の名前を見つけ、 互いに不思議だね、まさか出ているの?でもこの写真の二人似てるような似てないような…と 妙な落ち着かない気分になっていたのだ。 どうやら二人は特殊メイク?を施したキャラで出演していたそうだ。なるほど。

残念ながら私は体験できなかったが、これがリスボンの映画館だ!編

場内はそれこそ老若男女で満員。熱気ムンムン。皆のかけている期待の凄さが伝わる程だ。 どうやらリスボンっ子には映画はかなり大きな娯楽らしかった。 まるで休日のディズニーランドみたいなものなんだろうか。 なので静かに鑑賞するものではなく、自ら参加して感情移入しなきゃといったぐあい?。 よって上映中はひたすらにぎやか(うるさいくらい)。 ある意味『ロッキーホラーショウ』か初期『スターウォーズ』状態なのか?? 予告編は『ロジャー・ラビット』だったそうなのだが、超古典的なくすぐりにも場内大爆笑らしい。 この時悪い意味ではなく、笑いへの耐性差に恐怖に近いショックを受けたらしかった。 “絶対普通笑えない所なのよ、なのにそこで爆笑するの”ということらしい。 自分がその場にいたら同様だったはず、 つい自分も感じたに違いない妙な居心地の悪さ、きますざの事を思う。 私たちはどんどん刺激の強いものを求めて結果、 より先に続く道はあるかもしれないがもう戻れないのだ。

なんと途中フィルム交換の為の休憩時間まであるらしい。 そして(話聞いていてもうそのオチは予想していたんだが)終了するやいなや エンディングのクレジットが流れ始めるのも待たず殆どの人は席を立ち始める。 おかげで最後まで見届けたい派には気が散ることおびただしかったらしい。 自分も見届け派なんでその情景を思い浮かべると 何だかそのある種徹底したいさぎよさ?に笑ってしまった。 結局クレジットを最後まで見届けたのは、彼女とあと数人だけだった。 やはりというか何というか、物静かなインテリ紳士風や静かな学生風。 ラストクレジットぐらいついでに見ていってくれよ〜(笑)、とは思いつつ ここまで熱狂して映画を自分に(いささか強引に)引き寄せて楽しんでしまえるそのエネルギーは 羨ましくすらある。 ただ、最後の数人タイプの人はなかなか大変なんだろうナとその苦労がしのばれます。 がんばれ、同志!(笑)

結論
「『ニューシネマ・パラダイス』の世界なの。あれを現在(いま)やってんのよ〜」
だとか。

おそらく製作サイドはここまで深く考えていない、たぶん

で、肝心の『ディック・トレイシー』の話を聞くことに―。 あらすじに耳を傾け、その後正反対の女性キャラ2人の描かれ方であり、 その設定が大きく影響を及ぼしている結末に関する分析、考察に二人して突入。 一際熱の入る二人は一体なんなんだ…。

マドンナ演ずる所謂“強い”女―正しくは強くあろうとする女であり 幸か不幸かそれなりにその願いを叶えられる能力も持ち合わせていることが多い―と 所謂“かわいい”女―本人は弱いと信じ周囲も信じ込んでいる。 が必ず何処かで人の迷惑顧みぬ?大博打を打つ危険性をも持つ爆弾女、 何故かのように《強い》女を自他共に弱い女と疑うことなく信じられるのか、 考えてみれば不思議ではある―との対比なんですね、要は。 ぶっちゃけた話何時の世も後者が勝者というのがありがちで。 だからこの作品のように(例えパロディとしても)古式蒼然天然色絵巻(オールドファッションド・ムービー) の場合、その法則は絶対で逆は絶対ありえない理由です、いやありえない掟になっている理由です。 彼女はマドンナにシンパシーを抱きつつ、もう一人の方も解るのだ…とその複雑な胸の内を ベッドの上に腰かけて熱心に語るのだった。

お気づきかと思いますが、安宿には普通椅子などない。

かかっていた映画がまたこういう趣向だった事が例のムードと相乗効果を生み、 どちらにしてもノスタルジックな気分になること必至の得難い体験だったらしい。

ルードヴィッヒとどちらがより謎多いのだろう

さて。再び散策に出る彼女を見送った私は又ベッドに横になる。 数時間後に彼女が戻ってくる頃には、幸いにも身体はずいぶんラクになっていた。 そんな己を待っていたのは、幾つあるのか我々とて定かではないリスボンの謎の、 おそらく真打といえるものだった。それを発見したためか、いささか興奮気味に話してくれた。

リベルターデ大通りをそのまままっすぐ上へ上って行ってみた。
(うんうん)
しばらく進むとちょっとリッチな世界になり、こんなところもあるのかと感心していた。 そしてその辺りのある角を左折した。
(息を呑むように耳を傾ける私)
…。その先に何があったと思う?
(何がと言われても…)
そこには巨大デパートのようなビルがあった。
(嘘や!?)
周りにも同じようなビルが幾つも並んでいる。
(信じられない)
信じられないのはこちらも同じである。あまりの事に呆然となる。 幻を見ているのかと思った。 が、とりあえずその巨大スーパーかデパートに入ってみた。 食料品が広いフロアにあふれている。 そして人々はみな憑かれたように一心不乱に買い物をしてる。 もの凄いスピードで凄い量をひたすらカゴに投げ入れてゆく。 …見てはいけないものを見てしまった気もする。
(想像しながら聞いてるだけでかなり怖い)

そしていまだ信じられないを連発する私の前に、その店で購入してきたという袋を見せ、 中からいろいろなものを取り出し始めた。 まるでおとぎ話の魔法の袋のように、次から次へと尽きることなく出てくる食べ物。 実は、栄養価の高いものをと気遣いたくさん夕食用に買ってきてくれたのだ。 本当にありがたくも申し訳ない。応えるためにも早く治してしまおうと心に誓う。 話では、この手の普段使いの食料品はお手ごろな値段らしい。 買ってきたものの内訳を聞いていると確かに安い。ありがたいことだ。 アイスクリームはクリーミー、ヨーグルトはさっぱり。 オレンジはみずみずしく乾いた喉を潤し、ハムサンドでひとごこちつける。 そして…YOP。喜ぶ私。彼女も見つけて嬉しくて即買ったのだと笑う。 これで一人あたり280esc。確かに助かる。

現物を見せられた以上信じないわけにはいかないが…、 ならガイドブックでそこらの町事情が全然触れられていないのは何故なのだろう。 そんなに目立つ場所であるならはいくら既存のイメージから180度ずれるとはいえ、 何か一言でも触れない理由にはいかないだろうし、触れるべきだろうに。 それが最新版にも関わらず影も形も登場しないのは… 町の中心部から歩いて行ける距離にも関わらず。

何処かであれは現実の世界ではなかったような気が実はするのだ、とぽつりと言う。 今まで見てきたこの町の風景との落差が大きすぎて、信じられる範囲を超えているとも。 あの買い物しているみなのあまりの笑顔が。

「まさか…タイムスリップしてしまったんでは…」
半ば冗談半ば真剣に口にしあう。 確かにあれはリスボンなのだ。それは正しい。ただ1990年ではないのではないか。 何年先かは解らない、でも未来の開発されたリスボンの町に 何かの拍子に紛れ込んでしまったのではないか?

…この荒唐無稽(すぎる)とも言える本来一笑に付す説が一番リアリティを伴っていたのが怖い。 そこには近代的なリスボンがあったと彼女は言う。 嘘ではない、信じてくれとその眼は訴えている。 そんなにも両極端な形で町が分けられて存在しているのだろうか? リスボン、あなどれない。謎はひとつも解決しないまま深まるばかりであった。

真夜中の緊急集会、その後散会

夜、天井に吊ってあるメインのライトが点かなくなる。 びっくりしてこれは困るので階下のオーナー氏のところへ。 事情を説明し部屋まで直しにきてもらうことに。 あらま本当だ、ってな感じのおじさんはチョチョイのチョイと文字通り手際よく作業を済ますと、 これで大丈夫だよとばかり笑顔で戻って行った。 さすがに大事を取り、かつ教訓も生かし?シャワーは止めることにした。

上のライト消え事件?はもしかして前触れだったのか。 夜中いきないフロア中のライトが切れて皆びっくり(したと思われる)。 慌てて事情を把握するため私たちも廊下へ出る。 すると多くの宿泊客が同じようにみな驚いた様子でワイワイ状態。夜中なのになんだか賑やか。 右隣の部屋のアメリカ人の兄ちゃんは照れくさそうにしつつ、 困るよね〜本当にどうしよ〜という風で可愛らしかった。 彼はそこまで驚かなくてもいいのではないか、と思われるくらいウロがきていた。

どうやら誰かがまた呼びに行ったのか、オヤジがのしのしと階段を上がってきた。 もう皆の視線を一身に集めている。 悠然としていて電球が全て切れたくらいで何をそんなに大騒ぎしてるのか…という感じ。 皆が固唾を呑み見守る中、少しするとまたフロアはパッと明るさを取り戻した。 おじさんはまた悠然と戻って行った。 安宿にはいろんな事が起こるものなのだ。

さて。新鮮な果物と乳製品をまとめて取ったら、何と一晩で風邪は治ってしまった。 もちろん終日休養の効果もあるとはいえ…正直かなりの衝撃が。 要は、疲労とともに栄養失調が原因だったのか、すると。安心と同時にかなりとほほ…。

【追記】

上の謎の巨大ショッピングゾーンの正体は どうやらアモエイラス・ショッピングセンターだったと思われます。

『地球の歩き方・ヨーロッパ』('91-'92)のリスボン編に、 住むことによって見えてきたリスボン(のオススメ)として紹介されてました。 リスボン在住の投稿者('90時点の情報)による説明を読むとこことしか思えないくらいピッタシ。 ポンバル侯爵広場から徒歩10分、であるとか奇抜な建物であるとか…。

'91当時上の版を見た時の“ぇええええぇぇぇっっっ!!”感はそれはえらいもんでした。 謎が解けたのは幸いだが、どうせならもっと早くこの情報も載せていて欲しかった気が。 そうすればいい年してあんなに悩まずにすんだ、というか。 ちなみに今は大概のリスボン紹介でこの場所は必ず触れられているようです。 当時の我々のようなドキドキワクワク感で盛り上がる人も今はもういないのでしょうね。 当時は市内最大規模だったらしいが、現在はより大規模なものもできているのでしょう、反対に。

っていうか。ちゃんと実在していた理由だが。幻でもなくタイムスリップした理由でもなく。 ゴメンネ、リスボン。許してね、リスボン。

petty cashbook
ミネラルウォーター(1.5lt)ペットボトル"CARVALHELHOS" 110esc リベルターデ大通りの食料品店"PASTELARIA BAIANA"
ポテトフライ&サラダ付オムレツ 275esc オープンカフェ"Buondio Cafe"?
カフェエスプレッソ 40esc
アイスクリーム(大)1/2・ハムサンド1/2・フルーツ入りヨーグルト(小)・YOP・オレンジ1 280esc@一人 謎の巨大スーパーにて購入(うちヨーグルト42esc・YOP60esc・オレンジ25esc)

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