900915

ZAPPAのいる宿

暑い。 夏だ、まるで。こんなところでTシャツ+セーター+ジャケット姿にバックパック背負うなんて、 まるで絵に描いたような我慢大会だ(夜行は夜冷えるので厚着してたのが仇になった)。

サンタ・アポローニャ駅構内のインフォメーションで聞いたところ、 バス#9に乗りレスタウラドレス広場で下車すればi(ツーリスト・インフォメーション、 ポルトガルではツーリズモ)があるとのことだった。 が、が、が、バス乗り場がさっぱりわからない。ほとんどお手上げ。ばんざーい。 (ちなみに、ここサンタ・アポローニャのバス乗り場が判りにくいのは有名らしいと帰国後知った)

ばんざーいとばかりも言ってられないので、人に尋ねることにしよう。 一人のおばさんに声をかける。一見恐そう、でも実はとても親切な人だった。 一所懸命いろいろと説明してくれる、が当然ポルトガル語なわけで、申し訳ないがさっぱり解らない。 必死に耳傾けているのだが目が点かつ冷や汗たらり状態という我々の様子から事情を察してくれた彼女。 むんずとこちらの手をひっぱるやいなや、そのバス乗り場まで連れて行ってくれた。 そこに立ってバスを待っていたのが一人のおじいさん。 彼女は彼に、この二人の事を頼んで去って行った。

バスに乗り込む。 おじいさんが我々のことを覚えていてくれてるのかちょっと不安だったのだが、 広場に着くと、“ここだよ”という風に仕草で教えてくれた。 先のおばさんが、この子達はポルトガル語ができないのだ、と伝えてくれていたんだろう。 ありがとうございました、とバスを降りる。なんか人の善意で旅を続ける私たち。

どうしていつもこうなる

ないっっっつ!! iがないっ!!! バスを降りればすぐのはずのiが何処にもないっ!!!! 影も形もない、とはこのこと。

我慢大会継続中の身にはあまりなこの仕打ちではなかろうか。酷暑がしみる。 相変わらずジャケットはおりリュックせたらった姿のまま、うろうろと夢遊病者のように彷徨う。 ふき出す汗。はっきりいって、死にそう…。

や、やっと見つかった。 なんなんだいったい…広場のど真ん中にあるって、いったいどういうことだよ。 ここってさっきから何度もその前を行き交い目にも入っていた場所ではないか。 なのに…どうして気づかなかったのだろう。さすがに不思議にはなる。 というより、立派な外観の建物すぎて(実際フォス宮とやららしい)まさかこことは…。 ここポルトガルでもイギリス、フランスに引き続き狐にばかされることになるのか、ヲイ。 気をとりなおし、中へ入ろう。ホテルを探さねばならないんだから。

我々が甘いのか、現実が厳しいのか、はたしてその両方なのか。 こちらが言うような金額で朝食・シャワー付なんてレヴェルは無理に決まってるだろ、ばかやろー、 ってことらしかった。 ポルトガルは物価が安いということだったので、 少しだけ贅沢して心身ともにリフレッシュしようと思っていたのに。

あのね、でもね、でもね、とばかり食い下がる二人は、 窓口の女性に最新版ガイドブックのホテル紹介ページを見せる。 金額の数字のところだけ見てもらい相場としての意味が通じれば良いわけです、この場合。 彼女にとっては理由わからん妙な文字群の合間合間に現れる数字をしばし眺めた後、 静かに諭すような口調で口を開いた。 “あのね、こういうガイドブックを信用してはだめよ”だって。 同じような日本人を過去見てきたのかどうか。 oh my god!(オーマイガー)といった顔の二人に、その旅のレベルを察したのか、 彼女は“安宿ならこの辺りにあるわよ”と地図で示し見せてくれた。 そして、中でもバックパッカー御用達ならここよ、と一軒の宿を教えてくれた。

Frank Zappa in Lisboa

示された辺りの通りへ入ると、いきなりなんだか(よく解らんが)歓楽街風。 ここはリベルターデ大通りというかレスタウラドレス広場を東に入った裏通り。 ほえっ。あららのら。映画館が多い。ちなみにハードコアっぽい小屋も (なんで解るかというと、そりゃ当然看板がでかでかとかかってるからです、ええ)。 でもって、推薦されたその宿はそんな界隈の真ん中にあった。ちなみに隣はゲーセン。 通り挟んで向かいは"BINGO"とかいう看板のかかった劇場のような感じか。

とりあえず中へ入ってみよう。 入ってすぐ右手がレセプションのカウンター。 その後ろの壁には棚がしつらえてあり、何冊かのペーパーバックが表紙を見せるように並べてある。 おいおい、どうしてこんなところにFrank Zappa!!の(おそらく)バイオグラフィ本が 混じっているのだ。何故なんだ!?この胸の鼓動をどうしたらいいのか。 う〜ん、あなどれない、この宿。

オーナー氏は小柄だががっしりした体躯のオヤジ。 なんというか、にこやかで非常に良い人だと思われるのだが、 もし怒らすと非常に怖そう…かもしれない、つうかおそるべく別の顔を実は持っている… そんな勝手な妄想を喚起させるタイプにも見える。 いや、もちろん、実際は気さくで良い人でしたが。

オヤジ氏に二つの部屋を提示され、自分たちで見てこいと言われる。 なんで両方見る。 ひとつは2階。歩いてきた通りに面していて結構広い。 太陽がふんだんに入ってくるのが明るくて良い。 驚いたことになんと、テレビ付。でもってバス・トイレ付。ゴージャスさにわが目を疑う。 いいじゃん、いいじゃん、この部屋いいじゃん、と盛り上がる二人。 もうひとつは1階。裏庭に面しているようで太陽もあまりささず昼でもちょっと暗い風。 狭く、必要最低限の調度のみ(ま、それで問題無いのだが)。 ベッドはダブル、まぁ仕方ないか。後は洗面所だけという感じ。バス・トイレ共同。

結論。どうせだし1泊ずつ両方の部屋に泊まりたいとカウンターに戻り告げる。 1泊目は疲れを取るためにと、リッチ?な方に。 なんにせよ、今まで自分たちが泊まった中で一番デラックスな部屋だ。ドキドキするくらいだ。 いや、別の意味でも本当にドキドキする部屋なのだが…。 しかしポルトガルは(我々の予想を上回る物価高ではあるにしても)それでも 他の欧州諸国よりは過ごしやすいといっていいのかもしれなかった。 確かに一人当たり2,500円でこんな豪華(まだ言うか…)な部屋に宿泊できるなんて、という。 10,000近くはするだろう、他ではおそらく。 毎晩自分たちでエキストラ・ベッドをメイキングしていた(マジです) あのホテル・マリニョンですら一人2,700円近かったのだから。 しかし。安いといっても2泊ともゴージャス部屋にはしない(つうか、できない)我々。 そこらの心情を慮って頂けると非常に幸いかと。 故のこの1泊目のはしゃぎよう、ということで。 どうやらこの宿では5,000escの部屋が一番高いようだ。

うわーい。テレビがあるぞ。 ヨーロッパ入りした夜以来だぞ、部屋にテレビがあるなんて。 これで疲れもとれるだろう、と思ったのだが残念なことにこれは甘かったらしい。とほほ。

Come On Sardine

さあ、無事チェックイン完了。 窓を開けて、眼下の通りをゆっくりと見渡してみる。 向こうに工事中らしき建物がある、足場の骨組みが見える。 あたりは白く埃っぽい。 なんだかひどくいい匂いがどこともなく漂ってきて、やがてあたりを満たし 窓から身を乗りだす私をもつつんでくる。 ああ、香ばしい、この香りは魚を炭火で焼く匂いだ、と気づく。 ポルトガル名物といわれるイワシの塩焼きというのが、するとこれなのかもしれない。 通りが白く煙っているのは、このせいだったのか。 この町には生活の“におい”がある。

ポルトガルの青い空。
ポルトガルの風。
その下で、私は心に誓う。

なにがあっても、この町でイワシの塩焼き食ってやる…。

petty cashbook
auto carro(バス) 110esc (9番)サンタアポローニャ駅→レスタウラドレス広場
ホテル代@一人分 4,000esc 2泊(5,000&3,000)→ポルトガルの宿参照

TOP