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雨のにおいのする7月

世界がひっくりかえりそうな雨が さっきあがった
どうして どしゃぶりの後の空気は 見通しがいいんだろう
空には ぽっかりとまんまるいお月さま
いてもたってもいられなくて 自転車の鍵をはずす
雨のにおいのする7月
雨上がりのにおいがする7月の夜
夜空のした自転車で 少しだけ遠くまで

口笛小さく吹いて走る砂利道 だあれもいない
夜にふく口笛が縁起悪いなんて しったこっちゃあない
雨のにおいの残る7月
邪魔するものがある理由じゃないけれど
チリン チリン ベルをひとつ鳴らして走る

チリン チリン 何故か思い出すのは 三輪車のわたし
何処にも行けないと知っていたわたしは あの日
三輪車のベル鳴らしながら 何処へ行こうとしてたんだろう
そんなことは知らないよ とひょっこり顔をだす 雨蛙
見れば見るほど どうでもよさげな 面持ちだ
月が照らす 雨のにおいのする7月
風がきまぐれに 汽笛をひとつ連れて流れてゆく
蛙が無事横断するのを見届けたなら もう少しだけ遠くまで

何処までもお月さまはついてくる7月の夜
お月さまがとても好きだった君は 元気だろうか
誰よりも月を愛しながら 誰よりも太陽に愛されていた君
あんなにたくさん詰めこんだはずの 君の笑顔
なのにあの日から 君が最後にみせた顔しか思い出せない
真一文字に閉じられた あまりに静かなその口元だけを

わたしの髪を梳いていた その細く少し節だった指で
いまごろ 何に触れているんだろう
君の髪を巻きつけふざけた 君よりずっと短い私の指は
いま 自転車のハンドル握っている
チリン チリン と夜空にベルを鳴らしてる
もう少し まだ少し 見たことのない風景を 探しにゆきたくて

月の光が照らす 薄墨色した雲の海を見上げながら
激しい雨の通り過ぎた 7月の夜をゆく
雨のにおいのする7月 自転車で もっとずっと遠くまで

2002.7.19.